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『シニアが活きる人事施策と個人課題』

 

人口減少が及ぼす人材活用へのインパクト

 日本は世界の中でもかつてないスピードとレベルで少子高齢化が進んでいるといわれている。日本の総人口は予測より2年早く2005年に1億2778万人から約2万人減の1億2776万人と減少に転じている。2006年末の国立社会保障・人口問題研究所の推計によると将来の人口は、2050年には9515万人、2075年には6821万人とピーク時のそれぞれ25.5%ダウン、46.6%ダウンとなりその人口構成も2005年→2030年→2055年と右図のように変化する。

※国立社会保障・人口問題研究所データ引用

 人口予測のキーファクターの一つである合計特殊出生率は2005年で1.26と低下の一途を辿っている。普通死亡率は高齢化により2001年の7.7%から上昇を続け2050年には16.2%と予測されている。また、2005年時点の平均余命は男性78.53歳、女性85.49歳とそれぞれ前年より0.28歳と0.26歳プラスになっている。結果として、65歳以上の老年人口は2042年3863万人まで増え続けてピークを迎え、その後老年人口自体は下がり20055年には3636万人と予測されている。ただ、総人口の減少・出生率の減少と相まって老年人口割合は2042年の老年人口ピーク後も増え続け2055年にはなんと40.5%までに達する見込みである。これは現時点では 日本人の5人に一人が老人であるのがおおよそ50年後には2.5人に一人が65歳以上の老人になるということである。           

※国立社会保障・人口問題研究所データ引用

 老年人口自体が2042年をピークに減少するにもかかわらず老年人口割合が増加を続けるのは、少子化による年少人口の減少とこれに伴う生産年齢人口の減少が続くからである。(右図参照)生産年齢人口は1995年の8716万人をピークに減少し2025年には7096万人(59.5%)、2055年には4595万人

(51.1%)まで減少すると予測されている。

これは企業にとって将来へ向けての人材の確保が益々難しくなっていくということを意味している。量的な観点としての採用や質的な観点としての人材育成・ノウハウ伝承などの課題である。

 従来、シニア活用はノウハウ・スキルの伝承という質的な課題としてテーマに上っていたが、ここで見てきたような生産年齢人口の継続的な減少や老年人口割合の継続的な増加を考えると、人材確保と言う量的な課題としても重要なポイントであることがわかる。企業は単に新卒採用や若手中堅社員のキャリア採用のみに力を注いでいるだけではなく、フリーター・女性・シニア・外国人といった今まで活躍の場が少なかった人材をどう確保・育成し活躍してもらうかをも考えることが重要になる。その意味ではこれからの企業には本当の意味のダイバーシティが求められる。フリーター・女性・シニア・外国人など色々な個性や特性を持った個が活躍するあるいは活躍できる場を作る必要があるということである。

 

シニア人材活用の現状

 従来からシニア人材をどう活かすかという課題は確かにあった。しかし、本気で取り組んできた企業がどれだけあったのだろうか?総論賛成・各論反対でその実態は遅々として進まなかったというのが本音ではないだろうか。

そのなかで2006年4月から施行された高年齢者雇用安定法による動きは全ての企業にそれを義務付けた点で確かに企業の具体的な動きを加速させただろう。企業は①定年廃止②65歳までの定年年齢引き上げ③継続雇用(再雇用または勤務延長)のいずれかの対応をしなければならなくなった。2006年10月の厚生労働省が発表した改正高齢法に基づく高年齢者雇用確保措置の実施状況調査では全国8万1千社の内、①定年廃止が1.0% ②65歳までの定年年齢引き上げが10.8% ③継続雇用が72.1% 未対応が16.1% となっている。7割強の企業が再雇用または勤務延長の継続雇用を採用しておりしかも希望者全員を継続雇用するとした企業がその内の4割近くを占める。この数字を見る限りは比較的順調に高年齢者の雇用延長が進んでいるように見える。しかし、今後はより積極的にシニアを活かしていく必要があるという観点で考えた時には雇用確保はその出発点にたった段階と認識すべきである。

ただ、最近になって企業によってはかなり積極的に具体的なシニア活用に乗り出してきている印象がある。最近の企業トピックでも現時点の法定義務である63歳を越えた65歳定年導入企業が多くなっているし賃金水準も50歳代時点の賃金水準を維持したり評価に応じた高水準の賃金を支払うケースもあるという。また、再雇用での働き方を週2〜3日から5日までを選択できたり短時間勤務を選択できたりする多様な働き方も模索されてきている。

この動きを加速・拡大していかなければならない。人生100年時代がすぐそこに見えるほど人生そのものが長くなり体力も働く意欲も十分にあるシニアが益々増えるだろう。一方で、若年層の企業に対するロイヤリティの低下や個人のキャリア開花ステージの早期化による人間力に乏しい若手管理職が引き起こす人事労務問題など多くの歪が発生しているが、これらの課題はシニアを活かすことによって解決されるものもたくさんあるのではないだろうか。バブル崩壊時に成果主義の名の元に行われた結果主義・時価主義といったリストラと同様なシニア排除の発想ではなく、シニアを現状の課題に対してどう活かせばいいかという前向きな発想が求められているのだ。

 

シニア個人の意識の現状

 一方、シニア個人の意識はどうだろうか?

電通シニアプロジェクトが実施した団塊世代が考える「本格リタイア時期」と6つの「したい生活像」の調査からうかびあがった姿は次の通りである。

「本格リタイアライフのスタートは実質的に65歳前後にずれ込んで」おり、「60代後半にしたい生活は私生活の充実が基本」となっている。また、したい生活像は、社会貢献派29%・面倒回避派23%・にぎやか生活派15%・スローライフ派14%・海外志向派10%・全方位アグレッシブ派9%となっており、願望としては「経済的に豊かな暮らし」で「自由気ままな生活」をし「仕事以外のやひりがいに打ち込む」が大きいが同時にその実現見通しが低いことも認識しているようである。

 もう一つ、日本FP協会が実施した「50代給与所得者のセカンドライフと退職金に関する意識調査」では次の点が報告されている。

退職後にしたいことは「趣味や興味関心のあること」が最も高く、「再就職」が第三位、「社会活動」や「独立・起業」はさらに低くなる。また、老後の不安材料は「生活費」「健康」「年金」であり専門家への相談を希望する人の相談項目と一致している。金銭面で希望する生活費(月額)は30.5万円、最低限必要な生活費(月額)は22.1万円で現実的に得られるであろう生活費(月額)は23万円と見込んでいる。退職金については自分が受取る金額や方法(一時金か年金かなど)を約半数の人が把握しており、使い道は「老後資金」「退職後の生活費」「趣味や旅行」となっている。

 これらの調査結果を見て感じるのは、シニア個人は年金支給年齢の延長に伴い65歳までは何とか働き、その後は退職金を元に趣味や興味のあることを中心にのんびり暮らしたいと思っている。また、生活費や健康面が心配だが具体的にどうしたらいいのかがわからず何の手も打っていないという状況ではないだろうか。漠然とした不安を感じながらもハッピーリタイアメントを期待して何とかなると思っているのかもしれない。これは、ひとことで言えば長生きリスクを認識したライフデザインを描けていないということだろう。当然前提となるファイナンシャルデザインもそれと連携したキャリアデザインも描けていないということである。

 人生後半戦に突入したシニア層のライフデデザインでは自らのしっかりした価値観のもとで今後の残された時間をどう活かすかを考えることが最も重要である。ミドルまではたとえ何か――例えば会社――に頼り切って自立していなくても何とかなってしまった。また、今まではそういう時代だったかもしれない。しかし、これからのシニア層は自分の問題としてどう生きるかをしっかり考えなければならない。大切なことはこの後の数十年の人生をどう生きて行きたいのか!?何を大切にしたいのか!?居場所は!?・・・・・を他の誰に頼るわけではなく自分自身でしっかりと考えることだろう。

 

今後シニアが持つべき個人的課題認識

このような現状の中で、シニア個人がこれからの人生を生きていくときに持つべき課題認識があると思う。人生100年時代も間近となった現代では残りの人生の時間は今まで生きてきた時間とほぼ同様の時間があるといっても過言ではない。50歳60歳のシニアにはさらに30年〜40年近くの時間があるのである。今振り返れば過ぎた50年はあっという間であっただろうがこれからの30年40年は間違いなく長い。今からでもしっかりしたライフデザインを描くべきである。団塊マネーを狙った金融機関が盛んにセカンドライフプランセミナーを開催している。私はセカンドライフということばがあまり好きではない。セカンドライフ・第二の人生という言葉からは自分の人生が分断されたようなイメージをもってしまうからだ。だから私はいつもセカンドライフではなく、「たった一度の自分の人生」(=ライフデザイン)をどう生きるかという価値観を大切にし、そしてライフデザインを構成するキャリアデザインとファイナンシャルデザインを連携させて考えるべきと考えている。

つまり、シニア個人は、長生きリスクを真剣に考えつつ今後の長い人生をどう生きるかを再認識し、そのための土台となるファイナンシャルデザインを描き、今までのキャリアを活用しながら新しい働き方や役割を認識し、次代へ人生のメッセージ(ノウハウや智恵)を伝えていくことを認識しなければならないと思う。前述したようにシニア個人は従来型のどちらかと言うと早めのハッピーリタイアメントの意識が強いように感じるが、私はもっと自分のキャリアをどう活かすかについて、今までのキャリアの形を変えた活かし方、場を変えた活かし方、さらにはより発展させた活かし方を模索していって欲しいと思っている。多くのシニアは今を大事にした一瞬の積み重ねこそが充実した人生の時間となることを体現してきているはずである。残りの人生の時間をどう生きたいのか!をしっかり考えたいものだ。

また、企業は今後のシニア活用を積極的に進めるためにシニア一人ひとりにその気付きを与え必要な情報を提供する場を作っていく必要があるのではないだろうか。

 

これからの人事部に必要な二つの視点と課題認識

 今後の少子高齢化社会における就業人口の変化や働き方の変化が予測されるなか、女性活性化と同様にシニア活躍の場が益々必要になる。つまり、この課題は社会的にも重要な課題の一つではないかと思う。

この前提でシニアを活かしていこうとするときに考えるべき重要な視点が二つあると思う。一つは、企業人追求型のシニアを支援する視点、もう一つが自由人追求型のシニアを支援する視点である。シニア個人の意識を見る限り自由人追求型のシニア層が多いと思われるが企業人追求型のシニアも必ずいる。もちろん前提として個の力を組織に活かすという発想が必要である。

企業人追求型シニア支援の視点とは、シニア層を本当の意味で活かすための従来とは異なった視点の人事制度構築を中心とした企業人事課題である。一方自由人追求型シニア支援の視点とは、シニア個人の働き方や生き方などの意識変革といったシニア個人の課題である。

シニア層個人への意識変革もさることながら、特に従来とは異なった視点の人事制度構築は企業の人事課題としても大きい課題であろう。企業の人事部は早くこの課題に着手していく必要があると思う。

 具体的な課題としては、シニア層の新しい役割の模索とその評価の仕組み、時間軸を考慮した新しく柔軟な働き方、働く年齢を意識させない賃金報酬制度の構築などを骨子とした人事制度構築となろう。特に働く年齢を意識させない賃金報酬制度は従来型の60歳までを想定したS字型賃金カーブから脱した役割成果連動型の賃金報酬体系を描くことで総人件費をコントロールしつつ新しい役割に連動した成果賃金でシニアのモチベーションを維持する仕組みが必要である。但し、シニア層の賃金報酬制度は国の年金制度や高齢者雇用継続給付制度の動向により左右される面も否めない。今後の動向を考慮しながらもシニアを活かす視点で企業内の論理で新しい賃金報酬制度を構築することが必要であろう。

 

人事部はシニアの個人的課題にどう対応すべきか

前述したように企業は、シニア層を本当の意味で活かすための従来とは異なった視点の人事制度構築を進める必要がある。さらに私は企業が今後のシニア活用を積極的に進めるためにシニア一人ひとりにその気付きと情報を与える場を提供していくべきであると強く思う。制度づくりとシニアの意識変革は車の両輪のようなものだ。まして今後の少子高齢化の進展のなかで人材の質と量の確保や育成を考えたときに長生きリスク対応は個人だけの課題ではなくなると思う。もちろん、企業だけでなくキャリアカウンセラーやファイナンシャルプランナーなどの外部専門家を活用することも視野に入れての話である。企業がシニア個人を支援することは社会的にも意義のあることではないだろうか。

さらに言えば、このことは単にシニア活用という観点だけでなく、制度仕組みづくりから個人の意識変革・情報の提供とさらに企業風土そのものの改革が求められるという点で、フリーター・女性・外国人などあらゆる個を組織にどう活かすかを考えることに他ならないと言えるだろう。

2007年5月

<資料>

・  国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」

・  ㈱電通 電通シニアプロジェクト「団塊世代の願望クラスター調査」

・  NPO日本FP協会「50代給与所得者のセカンドライフと退職金に関する意識調査結果報告書」

・  厚生労働省「改正高齢法に基づく高年齢者雇用確保措置の実施状況について」

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